(対談)水族館でイルカを飼うということ 「イルカかわいい!」にとどまらない水族館との関わり方

こちらの記事の続きです。


(対談)水族館でイルカを飼うということ 日本のイルカ飼育は世界より何十年も遅れている




幻冬舎plusからです。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170227-00007214-gentosha-ent


「イルカかわいい!」にとどまらない水族館との関わり方<(対談)水族館でイルカを飼うということ>

2/27(月) 10:15配信


Mami(Podcast「バイリンガルニュース」MC)
川端 裕人

 様々な問題を抱える日本の水族館。狭いプールで何頭ものイルカを飼育していたりショー重視だったりと、イルカをひとつの個体群として考えたときに持続可能な環境になっていないという事実があります。


 後編では、水族館へ行く側の私たちがイルカの環境を守るためにできることは何なのかということを、動物園関係者のバイブル『動物園にできること』著者で、捕鯨船での取材経験もある作家の川端裕人さんに、バイリンガルニュースMamiが話を聞きにいきました。
 ※前編「日本のイルカ飼育は世界より何十年も遅れている」はこちら
(構成 兵藤育子 撮影 渡邊有紀)


イルカの飼育を取り巻く現状

 Mami 日本の水族館でのイルカの死亡数について教えて下さい。

 川端 水族館で飼われているハンドウイルカは300頭弱ですが、1割ほどが毎年死んでいます。そのなかには新生児や、外部から連れてこられたばかりの個体も入っていますが、20数頭から30頭くらいです。これは、21世紀に入って、日本動物園水族館協会(JAZA)が同じ形で統計を取るようになってから一貫した傾向です。

 Mami その数は自然界の死亡率と比較して多いのでしょうか? 

 川端 野生の群れの死亡率ってなかなかわからないんですよ。運良く長期観察できた野生の群れの事例から、それほど変わらないという人もいます。それで、自然界と変わらないから、飼育は問題ないとか。


 でも、今の動物園水族館の考え方では、自然界との比較が大事というよりは、その個体群がサステナブル(持続可能)かというのがポイントです。自然界でも、生まれて育つ数よりも、死ぬ数が多ければ、その個体群はいずれ消えますよね。そうならないなら、どこかで帳尻があっているんです。でも、日本の水族館のイルカをひとつのポピュレーションと見たときに、明らかに持続可能じゃないので。

 Mami 繁殖はどのくらい成功しているものなんですか? 

 川端 一桁の年もあれば、20頭近くの年もある。2015年ですと、13の繁殖事例のうち、年末(12月31日)まで生きていたのは5頭です。8頭は年内に死んでいて、これには流産や死産も入っています。1年目はすごく死亡する割合が高くて、2年目以降はよくなるみたいですね。生まれてもなかなか育たないのが問題なんですが、ちょっと時間間隔を長く見てると改善の方向にはあるようです。飼育されている個体の中で、水族館生まれのものの割合は、10年前は20頭くらいしかいなかったのに、去年の数字では40頭くらいに増えているので。

 Mami このペースで繁殖がうまくいけば、将来的に外から連れてこなくてもよくなるのでしょうか? 

 川端 その可能性はあります。ただし、日本のプールが狭いという大問題があって、狭いだけならともかく、ホールディングプールがないと出産間もないお母さんや、出産後の母子を置いておける余裕がないんですよね。ショーを重視しているところだと、一定期間ショーを休止しなければいけなくなるので、営業的にも敬遠されてしまうんです。

 Mami 1頭あたりのスペースの規定はあるんですか? 

 川端 日本にはないです。

 Mami 狭いところにたくさん入れても、罰則もない? 

 川端 日常的な動作するのに適切なスペースを確保する、という程度の記述が動物愛護法や関連する環境省告示のなかにあるけれども、具体的にはありません。JAZA(日本動物園水族館協会)にも、そういうスタンダードはないようです。

 Mami 個体あたりのスペースの現状はどうなっているんですか? 

 川端 日本の水族館の大きさを比較した調査をたまたま見ていたら、一番多いプールのサイズは600~700トン級のようです。小学校のプールが300トンくらいなので、その倍くらいのサイズでイルカを飼っていることが多いです。

 Mami そこに何頭くらい飼っているのでしょう。

 川端 場所にもよるけれども、5頭以上入れているところもあります。たしかに狭いので、イルカをよりよい環境で飼育したいと思っているトレーナーさんは、葛藤があると思います。

 Mami 規定を設けない行政の問題なのか、自主的にどうにかしようとしない経営側の問題なのか、それともこのことを問題視しない一般人の問題なのか……。

 川端 いろんな問題が重なっていますよね。一般人ができることとしては、公が運営に関わっているところであれば、市議会にかけ合うのが一番手っ取り早い気がします。でも、水族館の大部分は、民営です。

 Mami ロビイングの観点からいうと、議会でとりあげられるためには、まず国民が問題意識を持っていないと難しいですよね。

 川端 議員にとっても、自分のキャリアにプラスになるという判断がないと。

 Mami 日本でも一般の認知がもっと必要ですね。


VRの進化は動物園存続の脅威になる?

 川端 動物園側からすると、単にかわいいというだけの見られ方は不本意なんです。水族館は民間企業が多いから、かわいいでもなんでも来館してくれればそれでいいのかもしれないけれど、動物園は公共のお金で運営しているところが多いので。

 Mami 『プラネットアース』というBBCのドキュメンタリーがありますけど、いろんなところにカメラを仕掛けて、野生動物の臨場感のある映像を見せてくれるんです。

 あれを見ていると、動物園の必要性が薄れてくる気がして。動物園にいる動物は、捕まえて連れてきた時点で野生ではないわけで、檻に入った状態しか見られませんよね。テクノロジーが発達して、さらにリアルな映像が可能になったら、わざわざ動物を捕まえて檻に入れるような原始的なことは、必要なくなるかもしれない。

 川端 その可能性はあると思います。動物園に行くと動物と目が合ったり、においがしたりして、五感で存在を認識できるというのはその通りかもしれないけれど、人間ってバーチャルリアリティで、わりと簡単に「実感」を得ることがあるんですよね。

 Mami 前にVRでクジラと深海で出会うゲームをやったことがあるのですが、クジラと目が合ったとき、偽物だとわかっているのに普通に感動してしまいました。現段階の技術でこれなら、本当に目の前で見ている感じを再現できるようになったら、動物にストレスを与えたり彼らの人生を台無しにしてまでリアルを体感しなくてもいいのかなって。

 川端 正しいかどうかはさておき、それでいいやと思う人はたくさん出てくるでしょう。自分もそれで満足しそうなくらい騙されやすいですし。“virtual”は日本語で「仮想」と訳されることが多いけれど、「実質的に同じ」という意味ですよね。

 Mami VRの中で体験した記憶って、あとで思い返したときに実際の行動の記憶とあまり変わらないんですよね。クジラと出会ったり、ゾンビと戦ったりしたことが、経験のひとつとして脳内に残る。経験という意味では、VRの技術が向上すればするほど、現実との差ってなくなっていくのかもしれない。

 川端 動物園の存在意義において、近い将来、VRはライバルになると思いますよ。生き物が目の前にいる実感を、VRは簡単に与えてくれますから。

 Mami 昔、動物園でガラス越しにトラを見たとき、こんなに近くで見られるんだ! と感動しました。VRだとガラスの代わりにスクリーン越しになり、トラに触れるわけではないけど、今だって実際触れられるわけではないですもんね。

 川端 極端な話、VRを見ながら、ごわごわした毛皮みたいなものを触ったら、本物だと思ってしまうかもしれない。ハコスコを開発した脳科学者の藤井直敬さんが、ジョークの実験で男性に女性の映像を見せながら、太ももに手を導くようなシチュエーションで大根を触らせたら、すごく興奮したそうです(笑)。

 Mami 人間の脳って、視覚と聴覚がジャックされるとすぐに騙されますよね。

 川端 VRの進化は、動物園の最後の砦を崩してしまうかもしれない。そうなったときの動物園の最終業務は、今いる動物たちを飼いきることでしょう。それでいいのかどうか、これから議論になるところだと思います。

 Mami 人類の歴史を見ると、動物に対するエンパシーがどんどん増えていると思います。

 年配の方々と話したり、昔の小説を読んでいると、犬猫を蹴っ飛ばした、なんて話がカジュアルに出てきたりしますよね。今だと考えられない。そこから現在までたった数十年での変化を考えても、野生の動物の自由を奪って人間の観賞用に檻に閉じ込めておく、というのが娯楽として残り続けるのは想像できなくて。動物園や水族館が将来的にどうなるかわからないけど、少なくとも議論することは大事だと思います。

水族館へ行く側の人ができること
 川端 水族館に関して、僕が若干希望を抱いているのは、イルカの医療や繁殖研究に関するシンポジウムが、1月に大分で行われたことです。自治体と大学、研究者が連携した取り組みは初めてのことで、繁殖をきちんとやっていこうという旗揚げなのかなと期待しています。2月には、京都大学が水族館と連携したイルカ関連の会議がありました。
http://www.wildlife-science.org/img/news/561/2017-02-24-v2.pdf

 Mami こういう社会問題の話で重要なのは、悪いことにフォーカスするばかりでなく、いい取り組みがあったらみんなで盛大に褒めることですよね。

 川端 今まで大学と一緒に何かをすることすらなかったし、水族館は秘密主義なところがあったのですが、お互いに共有しようとする流れが出てきています。

 Mami 水族館へ行く側も、「かわいい」以上の視点が必要ですね。

 川端 そうあってほしいです。身近な水族館でイルカの調子が悪くてもショーを優先しているようなところや、イルカが死にすぎているようなところがあったら、議論をするべきでしょう。

 Mami どういうふうにイルカを入れているのか、水族館に問い合わせてみるのもいいかもしれない。水族館側にも、こちらが関心を持っていることが伝わりますし。

 川端 水族館って、民営のところが多くて、なにはともあれ、顧客の動向には敏感です。イルカ飼育が嫌いな人たちって、もともとお客さんではないので、いくら批判しても響かないんですよね。だから、むしろ、今、水族館に行く人たちの方が影響力があるかもしれない。イルカショーを見た後で、イルカの飼育について心配しているとか、完璧なショーでなくていいからもっと余裕のあるスケジュールにしてくれた方が安心できるとか、アンケートカードに書いてくれればいいと思います。

 Mami 確かに、イルカに無理させてまで絶対にイルカショーを見たい! という人のほうが少ないはず。そういうふうに意識している人の声が、数件あるだけでも違う気がします。ひとりひとりが出来ることも実はたくさんありますよね。ありがとうございます。


■Mami(Podcast「バイリンガルニュース」MC)
1986年東京都生まれ。帰国子女ではなく、東京育ちのバイリンガル。2013年5月から、友人のMichaelと2人で英会話Podcast「バイリンガルニュース」を始める。世界中から2人がピックアップしたニュースを、ユニークなバイリンガル会話方式で無料配信しPodcast1位の大人気番組に!  いつも阿佐ヶ谷のMichael宅で収録しており、独特のゆるーい雰囲気が魅力(放送中に荷物が届いたり、くしゃみしたり)。各エピソードの文字起こしテキストアプリも評判! 

ウェブアスタで相談エッセイ「バイリンガルニュースMamiのお悩みシェア」を連載中。http://www.webasta.jp/serial/onayami-share/

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■川端 裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。
デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、『声のお仕事』(文藝春秋)、『青い海の宇宙の港 春夏篇・秋冬篇』(早川書房)など。
メルマガ「川端裕人の秘密基地からハッシン!」(http://yakan-hiko.com/kawabata.html)



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