「犬の殺処分ゼロ」を神奈川県が3年連続達成できた理由

ヤフーニュース(ダイヤモンド・オンライン)からです。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160526-00091924-diamond-soci



「犬の殺処分ゼロ」を神奈川県が3年連続達成できた理由


ダイヤモンド・オンライン 5月26日(木)8時0分配信


近所の公園で保護した2頭のシーズー。交番経由で、川崎市動物愛護センターに引き取ってもらい、新しい飼い主さんに譲渡された


犬や猫を引き取っている「神奈川県動物保護センター」は、2016年度まで3年連続の犬の殺処分ゼロを達成した。「なぜ、神奈川県は殺処分ゼロを達成できたのか」。そのノウハウは、他の自治体でも役立つはずである。そこで、同センターを訪問し、話を聞いた。(取材・写真・文/ジャーナリスト 木原洋美)

● かつて小学生の娘と訪問した際に 目を潤ませていた獣医師の職員の姿

 「僕は動物を助けたくて獣医師になりました。殺処分するのは本当につらい」

 2010年の夏、当時小学6年生だった娘に付き添い、夏休みの自由研究のために訪れた川崎市動物愛護センターの職員は、目を潤ませながら話してくれた。

 我が家にも猫と犬がいる。猫は近所のアパートの軒下生まれだ。大切な家族として、彼らに対する愛情が深まるほどに、動物愛護センターに「保護」される犬と猫たちのことがずっと気になっていた。

 それまで私は、「動物愛護センターという名前ほど、皮肉な名前はない。実態は殺処分センターなのだから」と思っていた。しかし、川崎市のセンターは違っていた。10人いる職員の半数以上は獣医師。冒頭の想いを抱えた彼らは、殺処分数を少しでも減らそうと奮闘していたのだ。

 通常なら「収容から5日間経過しても飼い主が現れない動物は殺処分」すべきところ、実際は譲渡先を探しながら長期間飼育されていた。このため、建物内は所狭しとケージが置かれ、満員の状態。それでもケージ1つ1つに、収容されている犬猫の性格や当日の体調を記した手書きのメモが貼られ、職員は愛情込めて飼養しているようだった。新しい飼い主への譲渡を目指し、「しつけや散歩も行っている」と聞いた。

 当時の殺処分数は、年間1223頭を収容したうちの700頭弱(うち犬は30頭)。その10年前の2000年には2000頭以上を殺処分していたのだから、半数以下(『川崎市 動物愛護センター 平成22年度 事業概要』より)に減らしたことになる。

 悲惨な最期を遂げる動物を減らすため、私たちに何ができるかを職員に問うと……。

 「僕たち職員も、譲渡会や動物愛護教室といった啓蒙活動などの努力をしてきましたが、譲渡先を見つけてくれるボランティア団体には、本当に助けてもらっています。ただ、もらい手を増やす以上に重要なのは、無責任な飼い主を減らすことです。安易に飼って、安易に捨てることが、どんなにいけないことかを、あなたも学校で友だちみんなに教えてあげてほしい」との答えが返ってきた。


● 職員さんの顔を思い浮かべ 娘と手を叩いて喜んだ

 涙ぐましい努力が実り、2013~14年、川崎市動物愛護センターは2年連続で犬の殺処分ゼロを達成した。環境省の調べによると、2014年度に全国の自治体で殺処分された数は、犬が約2.2万頭、猫が約8.0万頭、計約10.2万頭にのぼる。

 同年の自治体に持ち込まれた動物の数は約15.1万頭、実に7割弱が殺処分されているなか、「ゼロは決して不可能ではない」ことを立証した意味は大きいと思う。あの職員さんの顔を思い浮かべ、私たち母娘も手を叩いて喜んだ。

● 3年連続で犬の殺処分ゼロを達成した 神奈川県動物保護センター

 実は2013年には、神奈川県動物保護センターも犬の殺処分ゼロを達成。翌14年度は犬と猫両方がゼロになり、15年度も記録を更新したというニュースは、4月26日に公表されたばかりだ。

 同センターは、横浜市と川崎市、横須賀市、相模原市、藤沢市以外の地域の犬や猫を引き取っている。私は神奈川県民として誇りに思うと同時に、他の自治体でもぜひ、「殺処分ゼロ」を達成してほしいと思い立ち、「なぜ神奈川県は殺処分ゼロを達成できたのか? 」を教えてもらうため、神奈川県動物保護センターを訪ねた。

 センターは、JR秦野駅から車で10分ほど走った、のどかな田園風景の中に建っていた。取材に応じてくださった岩屋修さんは獣医師の資格を有する、根っからの動物好き。14年間飼ってきたダックス犬を亡くしたばかりで「今、愛犬ロスなんですよ」とぽつり。「それは寂しいですね」…そんな、切ない愛犬談義から、取材はスタートした。

 「殺処分ゼロ達成」のポイントはざっくり2点ある。1点は、保護センターへ収容される動物を減らすこと。

 「いわゆる動物愛護法が改正されて、動物保護センターは平成25年から、正当な理由がない限り、飼い主からの犬猫の引き取りを拒否できるようになったんですよ。飼い主さんがお亡くなりになったとか、やむを得ない場合をのぞき、引っ越し等で飼えなくなったような場合にも、ご自分たちで譲渡先を探してもらいます」

 結果、「飼えなくなった犬・猫の引き取り頭数」は、以前の約半数に減少したという。

 しかし、引き取りを拒まれたら、不法に捨てられる数が増えてしまうのではないか?  という不安もよぎるが……。

譲渡した犬・猫の近況を知らせる手紙が、センターの廊下に掲示されていた。愛情ある新しい飼い主のもと、幸せに暮らしている姿が微笑ましい「見学者にはいつも、この写真を見ていただきながら説明しています」壁に掲示された、以前のセンターの写真には、既に撤去してしまった焼却炉も写っている


 データを見ると、捨て犬・捨て猫が含まれていると推測される「迷い犬等及び所有者不明の猫の収容数」は猫が24年度982頭から25年度492頭、26年度522頭、犬は24年度532頭、25年度394頭、26年度420頭で、この2年間はほぼ横ばい。収容された犬や猫が、飼い主のところへ帰宅できた「返還率」は、24年度の52.4%から26年度の60.2%へと、むしろ上がっている。これはどういうことなのか? 

「飼い主さんの意識の変化が大きいのでは。最後まで、責任を持って飼いましょうという啓蒙活動のほか、飼い主情報を記録したマイクロチップをペットの皮下に埋め込んで飼ってくれる人が増えてきたことが、要因だと思います。あとは外飼いの猫が減ったこと、TNR(※1)
活動の普及で、ノラ猫が減り、自力では生きられない子猫が持ち込まれるケースが減ったことも大きいですね」 確かに、最近うちの近所では、ノラ猫も、その子猫を見かけることもめっきり少なくなった。TNR活動によって、ノラ猫の赤ちゃんが生まれる頻度が激減したからだったのか。

 ポイントの2点目は、保護センターから譲渡する出口を広げることだ。

 「猫については、外飼の猫やノラ猫が屋外で子猫を産み、育てないこともあるため、乳飲み猫といって、3時間おきに授乳しないと生きていけない離乳前の子猫は殺処分せざるをえないことが多かった。でも今は、専門のボランティア団体が、収容したその日のうちに引き取りに来てくれて、飼い主探しまでやってくれるので殺さなくてもよくなりました。当センターには、40以上のボランティア団体や個人が登録していて、譲渡先を探したり、子猫や子犬を育てたりする活動をしてくれています。殺処分ゼロは、かかわっている人たちの努力が積み重なった結果です。ボランティアさんには頭が上がりません」

 (※1)
 Trap :トラップ(捕獲器)で野良猫を捕獲すること。
 ここで使われるトラップはヒューメイントラップ(人道的な捕獲器)のことで、猫を殺傷するようなトラップは含まれない。
 Neuter :ニューター(不妊手術のこと) オスもメスも含まれる場合が多い。
 Return :リターン(元の生活場所に戻してやること) Releaseが使われることもある。


● 殺処分室のないセンター建設計画 ドッグランやイベントホールなどを整備

 さて、犬と猫の殺処分ゼロを達成した神奈川県は、次のステージとして、動物愛護の拠点となる、新しい動物保護センターの建設をめざしている。

 そこには殺処分室は作らず、代わりに譲渡先が見つかるまで動物たちが快適に過ごせる飼養室、シャンプーやトリミングなどを行う施設、屋外で太陽の光を浴びながら元気に駆け回ることができるドッグラン、動物愛護のイベントなどを開催するためのホールなどが整備される予定だという。

 「殺処分室を作らないと、いつかどうしても処分が必要になった時に困るのでは?  それは行政として、責任放棄なのではないか」と批判する声もあるようだが、岩屋さんは「もう、殺処分室はいらない」と首を振る。

● 『ドリームボックス』で窒息死させ モノのようにまとめて焼却炉で焼いていた

 「今のセンターは40年前に建てられたもので、ガス室と焼却炉が大半を占める、殺処分のためのような施設でした。『ドリームボックス』という狭い部屋に20頭ずつ入れて、二酸化炭素ガスで窒息死させるのです。苦しいですよ、決して安楽死ではありません。簡単には死ねず、苦しんでいる動物もいる。そうした動物たちは、麻酔と筋弛緩剤を注射して殺し、モノのようにまとめて、焼却炉で焼いていました。残酷ですよ」

 実はセンターには、交通事故でケガをしたり、病気で治療が必要な動物も持ち込まれる。そうした動物たちは、神奈川県の獣医師会に委託され、引き取られて行くが、もう助からないと判断された場合には、いたずらに苦痛を引き延ばさないため、安楽死させることもあるという。それは保護の一環としての、本当の安楽死なのだろう。

 神奈川県動物保護センターは、文字通り動物を保護し、譲渡するための施設に生まれ変わろうとしている。処分するための部屋はもう、必要ない。


● 地階の飼養管理室 相性をみて振り分ける

 一通りお話を伺った後、センター内を見学させてもらった。

 まずは地階の飼養管理室へ。薄暗い廊下に、犬の吠える声が一斉に響き渡った。ガラス越しに廊下から室内をのぞくと、犬たちが尻尾を振って、フェンスのところへ集まって来た。みんな毛艶もよく、元気そうだ。奥の房では、「早くこっちに来てくれないかな」という顔で、身を乗り出している犬もいる。

 「ケンカしないよう、相性を観察した上で、各房に振り分けています。まあ、仲間内での序列を決めるために、最初はケンカも必要ですけどね。ケガをさせないよう気をつけています。猟犬ばかりの房もありますよ。この犬種は、川崎ではあまり見かけないんじゃないですか」

 神奈川の屋根と呼ばれる丹沢山地を控えたこの地域は、ハンターも多いため、山中で迷子になって収容される猟犬も多いのだ。

 「早く新しい飼い主さんが見つかるといいんですけどね。なかにはもう3年も収容されている犬もいます。あそこで寝転んでいますね(笑)」

 岩屋さんの眼差しや声には、犬たちへの愛情がこもっており、房内はよく清掃されている。しかし、地下室だからだろうか。日差しが入らない室内には、冷たくカビ臭い空気がこもり、薄ら寒い。さらに一番奥には空っぽの房があり、「以前は、収容6日目に殺処分するルールがあり、この房が5日目を過ごす部屋でした」と岩屋さん。

 そこは他の房とは違ってフェンスが可動式になっており、処分する犬たちを、壁の向こう側にある『ドリームボックス』へ、スムーズに追い込める仕掛けになっている。恐ろしさで、正直、胸が苦しくなってきた。

● 全部の犬が死んだか確認する ドリームボックスの窓

 「この部屋には、できればあまり入りたくありません。何か憑いて来そうで……」

 気乗りしない様子の岩屋さんについて、処分室へ入った。手前に設備をコントロールする機械があり、厚い1枚ガラスの向こうに『ドリームボックス』が見える。

 一度に20頭を処分したというボックスは、横幅2メートルもない狭い箱で、小さな窓が1つついていた。むろん、犬が景色を見るためのものではない。

 「全部死んだかを確認するための窓です」

 私は深く息を吐き、合掌せずにはいられなかった。

● 「殺処分ゼロ」への歩み 全国でも徐々に進む

 センター内にはこの他、独居房や冷暖房が完備された保健室的な房、病気や連れて来られるまでの間に死んでしまった動物のための、小さな観音様を祀った霊安室等もあった。猫用の飼養管理室は別の棟。当日収容されていたのは1頭だけだった。

 外にはドッグランのほか、来場者が収容動物と自由にふれあえる『ふれあい動物広場』が開園されており、親子連れが子犬まみれになって楽しんでいた。

 「可愛いでしょう。ここの子犬たちは昨日、ボランティアさんにトリミングしてもらったばかりなんですよ。気に入ってもらって、なんとか家に連れて帰ってほしいです」

 とはいえ、希望すれば誰にでも、譲渡するわけではない。譲渡希望者には、最後まで責任を持って飼い続けてもらうために教室への参加が義務付けられているほか、譲渡後もきちんと飼養できているかどうかのチェックも受けなければならない。

 見学の最後は、センターの裏手にある慰霊碑を訪ねた。小高い丘の上。樹木の緑越しに、丹沢の山並みが望める。

 改めて合掌し、人間のエゴのために殺処分された動物たちのことを想った。

 「殺処分ゼロ」への歩みは、全国でも徐々に進んでおり、神奈川県以外にも、神奈川県横浜市、北海道札幌市、熊本県熊本市、広島県広島市が達成している。広島県の場合は2011年に「殺処分ワースト1」となった不名誉を、広島市が挽回してくれた格好だ。

 殺処分ゼロは決して夢ではない。不可能と思われていたことを可能にした、これらの自治体の活動が全国に波及することを願ってやまない。


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