「犬の引き取り屋」で生き、死んでいく犬たち 「不幸」の再生産を止めるため、求められる二つの施策

ヤフーニュースからです。

http://bylines.news.yahoo.co.jp/ohtamasahiko/20160516-00053862/



「犬の引き取り屋」で生き、死んでいく犬たち 「不幸」の再生産を止めるため、求められる二つの施策


太田匡彦  | 朝日新聞 記者

2016年5月16日 21時0分配信


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栃木県中部にある「犬の引き取り屋」。そこで生き、死んでいく犬たちを救うには……



「犬の引き取り屋」というビジネスがある。

 

ペットショップで売れ残った子犬や、繁殖能力が衰えた繁殖犬を、1匹あたり数千円から数万円程度の費用をもらって引き取るビジネスだ。

 

このビジネスについての詳しいところは、2015年3月24日付の朝日新聞朝刊に書いた「『引き取り屋』という闇」という記事を参照いただきたいが、犬の引き取り屋というビジネスが活発化している背景には、2013年9月に施行された改正動物愛護法がある。

 

改正動物愛護法では、ペットショップ(生体小売業者)や繁殖業者などからの犬猫の引き取り要請を、各自治体は断れるようになった(第35条)。そもそも各自治体における殺処分数を減らすことが狙いであり、同時に、犬猫等販売業者にも「終生飼養の確保を図る」ことが義務付けられた(第22条の4)。

 

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写真A/2015年3月24日付朝日新聞朝刊に掲載したパピヨンの写真


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写真B/今回入手した、紙面に掲載したのと同じパピヨンと見られる犬の写真。金網状の床のうえで生きている。目の前には糞が堆積している


 ところが、少なくない業者にとってこれらの規制は、売れ残った子犬や繁殖能力が衰えた繁殖犬を処分するための「出口」の一つを失うことしか意味しなかった。改正動物愛護法では、8週齢規制が「骨抜き」になり、飼養施設規制や繁殖制限なども見送られたため、生体の流通・小売業者を頂点に据えた大量生産、大量消費、大量遺棄のビジネスモデルはそのまま温存されてしまったためだ。

結果として、犬の引き取り屋というビジネスが活性化している。

●引き取り屋で生きるパピヨンの写真

今回、再びこのことを書いておこうと思ったのは、最近になってある写真を入手したことがきっかけだった。

 

朝日新聞の記事で言及した犬の引き取り屋を、私自身が実際に訪ねたのは2015年3月上旬のことだ。記事には、2014年冬に動物愛護団体が内部の様子を撮影した写真を添えた(写真A)。

 

同じ動物愛護団体が2015年12月に再び、この犬の引き取り屋の様子を確認、撮影した。そうしたところ、記事に掲載した写真に写っているパピヨンと見られる犬がまだ、せまいケージに入れられたまま飼育されていた。その様子が写っているのが、今回入手した写真(写真B)だ。

 

被毛の状態がかなり悪く、四肢や臀部については脱毛も見られる。この写真が撮影された際、動物愛護団体とともに内部を確認した獣医師はこう話す。

「記事に載った写真に写っていたパピヨンと見られる犬は、皮膚炎にかかっているのになんの治療もなされていませんでした。あの環境ですから、ノミやダニなどの感染からは逃れられません」

 

このパピヨンも含め、散歩など適切な運動をさせてもらっていないことが明らかな犬がほとんどで、なかには獣医師による治療が必要な状態の犬も少なくなかった――と指摘する。

 

いくつかの事例をあげてみる。

爪が伸びっぱなしで、毛玉に覆われている犬。

精神疾患の一つである、常同障害の症状が出ている犬。

緑内障のため、眼球が突出している犬。

既に、目が見えなくなっている犬。

さらには、狭いケージの床面は金網状になっているため、前脚が湾曲したり、後ろ脚が骨格異常を起こしていたり、という犬たちも……。

 

列挙していけばキリがないほどに、悲惨な状態だった。

獣医師は言う。

 

「狭いケージに入れられたまま、適切に管理されずに飼養されているために、犬たちはボロボロの状態でした。猫も数多くいて、巻き爪が肉球に食い込んでいる子や、耳の後ろをかきむしったために肉が露出している子もいました。しかもケージには糞尿が堆積しており、本当に最悪の環境。動物愛護法に違反しているのは明らかでした」


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こんな状況のまま「死ぬまで飼う」ことに、問題はないのだろうか

●「治療が必要な犬の存在には気付かなかった」(栃木県)

実は動物愛護団体がこうした様子を確認した前日、この犬の引き取り屋に、栃木県動物指導センターの職員2人が監視、指導に入っている。にもかかわらず、実際に施設内に立ち入った職員の一人でもある岡村好則・同センター所長補佐兼普及指導課長(当時)はこう話す。

 

「犬が約150頭、猫が約20頭いてすべての動物を確認したが、治療が必要な犬猫の存在には気付かなかった。清掃もされていた。この業者の飼養環境が著しく悪いとは見ていない」

 

同じ現場に、1日しか違わない日程で立ち入っていながら、ここまで見解が異なるのは不思議な現象だ。

 

2015年5月30日付朝日新聞朝刊に「ずさん管理、10年『放置』」という見出しで東京都の動物愛護行政の問題について書いたこともあるが、自治体による監視・指導が、業者の実態に追いついていない事例はままある。栃木県の場合はどうなのか……。少なくとも2015年3月上旬に私自身が目にした状況と、栃木県の見解とが異なることには言及しておきたい。

 

そして2016年5月12日、この業者は動物愛護団体から動物愛護法違反の疑いで栃木県警矢板署に刑事告発され、同署は告発を受理した。

●「犬の引き取り屋」を必要とするビジネスモデルが問題

ところで、以前に取材した際、この犬の引き取り屋を営む男性はこんな発言をしていた。

 

「週に1、2回は必ず電話があって出向いている。1回あたり5~10頭、多いときは30頭くらいを引き取る」

「ペットショップの店頭には20万、30万で売れる新しい犬を置いたほうがいいと、賢い社長はわかってる。バカな社長は1万、2万で売ろうとする。だから『新しい犬をどんどん入れろ。5、6カ月の犬は俺の所に持ってこい』って言ってるんだよ」

 

「毎日、掃除して、すべての犬を運動させている。殺さないで、死ぬまで飼う。僕みたいな商売、ペットショップや繁殖業者にとって必要でしょう」

生体小売業を頂点に据えたビジネスモデルが温存されている限り、この男性の言うように、犬の引き取り屋というビジネスは一部の業者にとって必要不可欠なものなのだろう。

 

だがそもそも、犬の引き取り屋というビジネスが必要なってしまう構造にこそ、問題があるのではないか。犬の引き取り屋のもとで生涯を送る犬猫をこれ以上増やさないために、大きくわけて二つの施策が求められる。

 

一つは現在、附則によって「骨抜き」になっている8週(56日)齢規制を一日も早く、本則通りに実現すること。8週齢規制が、子犬や子猫の心身の健康を守るために必要なことは論をまたないが、それと同時に犬猫等販売業者の適正化に大きく寄与することは明らかだ。

 

もう一つは、2016年度にも環境省が検討会を立ち上げて導入を目指すという、飼養施設規制と繁殖制限だ。飼養施設の大きさなどが具体的な数値をもって規制されることになれば、自治体による監視・指導は格段に行いやすくなる。また繁殖制限が導入されれば、パピーミル(子犬繁殖工場)などでの大量生産は困難になるだろう。

 

不幸な境遇におかれる犬猫を減らしていくためには、これらの施策をもってすみやかに動物取扱業者の適正化を進め、現在のビジネスモデルに変革を促すことが、何よりも必要なのではないだろうか。

 

今日も日が当たらぬ、劣悪な環境で生き、死んでいく犬や猫がいる。環境省や各自治体による一日も早い対応が待たれる。

 


太田匡彦 朝日新聞 記者

1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年3月、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に隔月掲載)創設に携わり、同年5月にはペット情報発信サイト「sippo」を立ち上げた。16年4月、文化くらし報道部に異動し、現在に至る。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日文庫)、共著に『動物のいのちを考える』(朔北社)などがある。

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